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千葉地方裁判所 昭和59年(ワ)389号 判決

主文

一  被告らは各自原告に対し金一二一六万二一九五円及び内金一一一六万二一九五円に対する昭和五九年四月二九日から、内金一〇〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は五分としてその二を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  申立て

一  原告

1  被告らは各自原告に対し金一九一六万一七七九円及び内金一七六六万一七七九円に対する昭和五七年一二月一日から、内金一五〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告岡崎工業株式会社(以下「被告岡崎工業」という。)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  被告高千穂工業株式会社(以下「被告高千穂工業」という。)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  主張

一  原告の請求原因

1  原告は、昭和五六年三月一二日午後五時ころ、君津市君津一番地所在の訴外新日本製鉄株式会社君津製鉄所構内の被告岡崎工業東京工事部作業所(以下「作業所」という。)において、走行用型ホイスト・クレーン(以下「本件クレーン」という。)を操作していたところ、破損した管台リング(以下「リング」という。)に右足をはさまれて、右膝蓋骨脱臼、右下腿骨開放性骨折の傷害を負った(以下これを「事故」という。)。

2  原告は、事故による右膝蓋骨脱臼等を治療するため、木更津市所在の訴外医療法人萩仁会萩原病院に、昭和五六年三月一二日から昭和五七年四月一八日まで四〇三日間入院し、同月一九日から同年一一月三〇日までの間に七〇日間通院した。

その症状は同年一一月三〇日に固定したが、原告は、後遺障害として、「右大腿部に著明な筋萎縮がある。右膝関節は、前後・左右の方向に著明な動揺性があり、歩行には固定装具を必要として、可働域が左の二分の一程度であり、その用を廃した状態である。右下腿部に長さ二三センチメートルの線状痕を残す。」ことになった。

原告は、昭和五八年一二月二〇日右の後遺障害について、労災障害等級第八級相当の認定を受けた。

3  原告は、昭和五五年二月から被告高千穂工業に勤務し、事故の日の一〇日前ころから作業所においてリングの製作作業に従事していた。

リングの製作は、被告岡崎工業が被告高千穂工業に発注し、同被告がこれを請け負って、その製作に当たっていた。

4  事故は、次のようにして発生した。すなわち、原告は、本件クレーンに二点掛けのハッカーを使用したワイヤーロープを用いて仮溶接済みのリングを吊り下げ、クレーンの走行用スイッチを押して、リングを西方へ移動させていたところ、それが行き過ぎた。そのため原告が反対方向の東方への走行用スイッチを押したところ、吊り下げられたリングが他のリングに触れて、吊り下げられたリングの仮溶接部分が破損し、そのリングが落下して、原告の右足をはさんだ。

5  被告らには、次のとおり責任原因がある。

被告岡崎工業は、作業所において、その所有に係る本件クレーン、仮組定盤その他の機械設備を被告高千穂工業に提供し、かつ、同被告のリングの製作作業を指揮監督して、原告をその作業に従事させた。

被告高千穂工業は、作業所において、本件クレーンに使用するハッカー等を提供し、原告をリングの製作作業に従事させた。

本件クレーンは、走行ブレーキが備えられていなかったため、しばしば走行中に滑走し過ぎて、危険であった。

原告は、被告らの担当者に対し、しばしばその危険性を訴えていたが、被告らは、何ら対策を講じなかった。

事故の最大の原因は、本件クレーンに走行ブレーキが備えられていなかったことにあった。

原告は、本件クレーンを運転する資格を有していなかったが、クレーンの操作方法は、六個のボタンを押すだけの単純なものであったから、原告は、クレーンの操作に習熟していた。作業所においては、運転資格の有無を問わず、誰もがクレーンを運転していたのであり、被告らは、無資格者の運転を視認していたのに、これを注意しなかった。

以上のとおり、被告らは、安全配慮義務を怠ったので、原告に対し、債務不履行による損害賠償責任を負う。

6  原告は、事故により次の損害を被った。

(一) 入通院慰謝料 二五〇万円

(二) 後遺障害慰謝料 五〇〇万円

(三) 逸失利益 一四一六万五二八〇円

原告は、昭和九年三月三〇日生まれで、症状固定日の昭和五七年一一月三〇日には四八歳であった。原告は、後遺障害により四五パーセントの労働能力を喪失した。事故当時の収入は月額二〇万円であった。四八歳のホフマン係数は一三・一一六であるから、右の額となる。

(四) 原告は、労災一時金として四〇〇万三五〇一円の給付を受けた。

これを控除すると、損害の残額は一七六六万一七七九円となる。

(五) 弁護士費用 一五〇万円

被告らが責任を争うので、原告は、訴訟代理人に本件訴訟を委任し、その費用として一五〇万円を支払うことを約した。

7  そこで、原告は、被告ら各自に対し、損害金一九一六万一七七九円及び内金一七六六万一七七九円に対する催告の日の後の昭和五七年一二月一日から、内金一五〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告高千穂工業の答弁

1  1の事実を認める。

2  2の事実は知らない。

3  3のうち、原告が作業所においてリングの製作作業に従事していた事実を否認する。

4  4のうち、本件クレーンに吊り下げられたリングが他のリングに触れて、仮溶接部分が破損した事実は知らないが、その余の事実を認める。

5  5の事実を否認する。

6  6の事実は知らない。

三  請求原因に対する被告岡崎工業の答弁

1  1の事実を認める。

2  2の事実は知らない。

3  3のうち、原告が事故当時作業所において作業に従事していた事実を認める。

4  4のうち、本件クレーンに吊り下げられたリングが他のリングに触れて、仮溶接部分が破損した事実は知らないが、その余の事実を認める。

5  5のうち、被告岡崎工業が被告高千穂工業を指揮監督していた事実を認めるが、その余の事実を否認する。

6  6の事実は知らない。

四  被告らの抗弁

1  事故は、原告の自損行為であった。

原告は、事故当時被告高千穂工業の取締役企画部長であって、現場での事務管理者として、作業員の出勤簿の管理、作業進行状況の把握、被告岡崎工業との事務打合せ等に従事していたのであり、本件クレーンの操作には従事していなかった。原告は、クレーンを運転する資格を有していなかった。原告がクレーンに吊り下げたリングは、仮溶接されただけの仕掛品であって、これを移動させる必要はなかった。被告高千穂工業においてクレーンの運転資格を有していた作業責任者訴外小屋敷義彦は、現場を離れていたので、クレーンを操作してはならない状況にあった。原告は、無資格で職務外のクレーン操作を行い、必要もなかったリングの移動作業を行って、事故を引き起こした。

したがって、被告らには損害賠償責任がない。

2  原告には事故の発生について過失があった。

本件クレーンには構造上の欠陥又は機能の障害がなかった。

原告は、リングにワイヤーロープを掛けるのに、三点掛けのハッカーを使用せず、二点掛けのハッカーを使用した。そのため吊り下げられたリングの安全性が損なわれ、仮溶接部分に過重な力が加わって、リング破損の原因となった。

本件クレーンには電磁ブレーキが内臓されており、走行用スイッチを切ると、自動的にブレーキが作動した。その際スイッチを急に切ると、急制動により積荷に加わる慣性力が強く作用し、積荷に衝撃を与えて破損の原因となったので、スイッチは断続的に切り押しを繰り返し、クレーンが徐々に止まるようにしなければならなかった。

原告は、クレーンが西方へ走り過ぎたため、スイッチを急に切り、反対方向(東方)へのスイッチを押したのであるから、その操作を誤った。そのためリングに衝撃が加わり、仮溶接部分が破損した。

リングを移動させるに当たっては、仮溶接部分が破損するおそれがあったので、リングの外側に位置してクレーンを操作しなければならなかったのに、原告は、リングの内側に居てクレーンを操作したため、破損したリングに右足をはさまれた。

五  抗弁に対する原告の答弁

1  1のうち、原告がクレーンを運転する資格を有さず、リングが仮溶接されただけのものであり、小屋敷が現場を離れていた事実を認めるが、その余の事実を否認する。

原告は、現場責任者小屋敷から指示を受けて、クレーンを操作し、リングを移動させる作業をした。

2  2のうち、原告が二点掛けハッカーを使用した事実を認めるが、その余の事実を否認する。

二点掛けハッカーは、被告高千穂工業が備えていたものであり、本件クレーンには電磁ブレーキが内臓されていなかった。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一  原告主張の請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  〈証拠〉によれば、原告主張の請求原因2の事実を認めることができる。

三  〈証拠〉によれば、原告主張の請求原因3の事実を認めることができ、〈証拠〉はいずれも右の認定を左右するに足りず、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。

四  事故が発生するに至った経緯について考察するに、「原告が、本件クレーンに二点掛けのハッカーを使用したワイヤーロープを用いて仮溶接済みのリングを吊り下げ、クレーンの走行用スイッチを押して、リングを西方へ移動させていたところ、それが行き過ぎた。そのため原告が反対方向の東方への走行用スイッチを押した。吊り下げられたリングの仮溶接部分が破損して、落下し、それが原告の右足をはさんだ。」との事実は、いずれも当事者間に争いがない。

原告は、リングが破損した原因について、「吊り下げられたリングが他のリングに触れて、その仮溶接部分が破損した。」と主張し、「直径五メートルのリングを吊り下げた本件クレーンを東方から西方へ約一〇メートル移動させようとした。移動目標地点の西方には、他のリングが幾つか置かれていた。クレーンの走行用スイッチを押していたところ、行き過ぎそうになったので、そのスイッチを切り、直ちに東方へのスイッチを押した。クレーンは止まったが、吊り下げられたリングが西方に揺れて、角材の上に置かれていたリングに当たり、その衝撃で仮溶接部分が破損した。」と供述する。

ところで、原告の右の供述は、原告の「本件クレーンを一〇メートルくらい走行させて、走行用スイッチを切った場合、クレーンが止まるまでには、荷重と風力にもよるが、二、三メートルから四、五メートル滑走する。」との供述を前提とするのであるが、その前提とする供述は、証人小屋敷、同安藤及び同佐藤英樹の各証言と対比して、たやすく信用することができないものである。

しかし、破損の原因については、証人木塚が、「原告は、クレーンに吊り下げたリングを誰にも支えてもらわず、一人で作業をしていたので、スイッチを操作した際にリングが揺れ動き、仮溶接部分が折れたのだと思う。」と証言するにとどまっており、これを裏付ける証拠もないのであるから、原告の前記主張事実に符号する供述を排斥するのも相当でなく、これによれば、原告主張の事実を認めるべきこととなる。

五  被告らの責任原因について考察する。

1  被告岡崎工業は、同被告が被告高千穂工業を指揮監督していた事実を自白しており、〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、その認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告岡崎工業は、被告高千穂工業にガスダクト用の管台とそのリングの製作を発注し、本件クレーン、仮組定盤、組立用定盤レール等の機械設備を設置した作業所を同被告に使用させて、その製作作業に当たらせた。

本件クレーンは、吊り上げ荷重二トンのものであったので、被告岡崎工業は、これを年次点検及び月例点検の対象とせず、必要に応じて点検と補修をすることにしていた。

(二)  被告高千穂工業は、リングを吊り下げるためのハッカーを用意し、本件クレーン等の設備を使用して、リング等の製作作業を行った。

(三)  一日の作業は、まず、被告岡崎工業の担当課長等が被告高千穂工業等の下請業者の従業員を集めて朝礼を行い、安全衛生等について一般的な指示をした後、各担当者が下請業者ごとに具体的な作業について打合せを行い、その作業内容が伝達されて、作業が開始された。

(四)  被告高千穂工業は、事故の日の一〇日くらい前からリング等の製作作業を行っていたが、事故の日には小屋敷義彦(昭和一七年六月生)が作業責任者となり、訴外木塚貴裕(昭和三七年五月生)、同木塚保将と原告(昭和九年三月三〇日生)が作業に従事していたほか、他社から派遣された電気溶接工がリングの本溶接作業を行っていた。

小屋敷は、事故の日の午後四時三〇分過ぎ、電気溶接工を宿舎まで送るため、同人とともに作業所を離れたので、その後には原告と貴裕、保将の三人が残った。

2  原告らは、抗弁として、「原告は、クレーンの運転資格を有していなかった。小屋敷が作業所に居なかったので、クレーンを操作してはいけなかった。リングの移動作業は必要でなかった。」と主張する。

原告が本件クレーンの運転資格を有していなかった事実は、当事者間に争いがなく、小屋敷が作業所に居なかった事実は、1の(四)に認定したとおりである。

しかし、〈証拠〉によれば、被告高千穂工業の従業員は、クレーンの運転資格を有していない者でも、作業所において本件クレーンの操作を行い、クレーンでリングを移動する作業を行っていたのであって、被告らは、いずれもこれを黙認していた事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

また、〈証拠〉によれば、「小屋敷は、作業所を去るに当たって、木塚らに対し『道具類を片付けておいてくれ。』と指示したにとどまり、リングを移動させておくように指示したことはなかった。」というのである。しかし、〈証拠〉によれば、事故の日には午後五時まで作業する予定であった事実を認めることができるのであるから、当日の午後四時三〇分過ぎころに道具類だけの片付けを指示したというのは不自然であり、〈証拠〉によれば、小屋敷は、作業所を去るに当たって、「その後も誰かクレーンを使用する者があるかも知れない。」と考え、クレーンを所定の場所に格納せず、その電源も切っていなかった事実を認めることができる。

したがって、この点については原告の供述を信用するのが相当であり、原告の供述によれば、原告は、小屋敷から「組立用定盤レールの上にあるリングを、レールの西方へ移動させておくように。」と指示された事実を認めることができる。

してみれば、被告らの前記主張は失当なものである。

3  原告は、本件クレーンには走行ブレーキが備えられていなかったと主張する。

〈証拠〉によれば、本件クレーンのような種類のクレーンには走行を制動するためのブレーキとして電磁ブレーキが備えられるが、本件クレーンにはそれが備えられていなかった事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

また、原告は、「本件クレーンが走行中に滑走し過ぎて、危険であったので、被告らの担当者にその危険性を訴えていた。」と主張し、「事故の日の約二週間前に安全パトロールをした後の反省会で、『クレーンが危険なので、直してほしい。』と申し出た。」と供述する。

しかし、四に説示したとおり、原告の「本件クレーンを走行させて、走行スイッチを切った場合、止まるまでに二、三メートルから四、五メートル滑走する。」との供述は、たやすく信用することができないのであり、原告の「クレーンの危険性を訴えた。」との供述は、証人小屋敷、同木塚及び同安藤の各証言と対比して、たやすく信用することができない。

〈証拠〉によれば、本件クレーンの走行速度は分速二〇メートルであり、走行中のクレーンを止めるには、目標地点の二、三メートル手前から走行用スイッチを断続的に二、三回切り、速度を徐々に落としながらその地点に接近させるのが最善の方法であるが、走行用スイッチを切るだけでも、クレーンは〇・五ないし〇・六メートル滑走するだけで停止していた事実を認めることができる。

4  したがって、事故の発生原因としては、後記のとおり、原告が本件クレーンの操作を誤ったことを指摘することができるのであるが、被告らは、「本件クレーンを操作して走行中のものを停止させるには、それなりの習熟度を必要としたのに、これを運転する資格を有していない者がクレーンを操作していたのを黙認していた。走行用スイッチを切るだけでは、滑走を制御することが困難であったから、滑走による危険を防止するために走行ブレーキを取り付ける必要があったのに、これをしなかった。」という点において、原告に対する安全配慮義務を尽くさなかったと認めるのが相当である。すなわち、被告らは、いずれも債務不履行の理由により、原告に生じた損害を連帯して賠償すべき責任がある。

六  前記のとおり、原告は、本件クレーンを運転する資格を有していなかったのに、クレーンに二点掛けのハッカーを使用して仮溶接済みのリングを吊り下げ、これを西方へ移動させていたところ、行き過ぎたため、反対方向(東方)への走行用スイッチを押したものの、リングが西方に揺れて、角材の上に置かれた他のリングに当たり、仮溶接部分が破損して、これに右足をはさまれた。

〈証拠〉によれば、本件クレーンに仮溶接のリングを吊り下げて移動させる作業を、一人でクレーンを操作しながら行うことは危険であった事実を認めることができる。

〈証拠〉によれば、被告高千穂工業は、三点掛け用のハッカーを用意しなかった事実を認めることができるのであるが、〈証拠〉によっても、二点掛けのハッカーを使用したのでは、移動中のリングの安全性が損なわれた事実を認めることができる。

〈証拠〉によれば、クレーン運転士教本には、「クレーンの運転中、故意に逆ノッチを入れ、減速させることを逆相制動といい、運転を急停止させたい場合にしばしば使われている。」と記述されている事実を認めることができる。しかし、〈証拠〉によれば、原告が、走行中の本件クレーンが行き過ぎたとして、西方への走行用スイッチを切り、直ちに東方への走行用スイッチを押したことは、リングを西方に揺れさせることになって、適切でなかったと認めるのが相当である。

したがって、原告は、本件クレーンに仮溶接のリングを二点掛けで吊り下げ、これを西方へ移動させるという危険を伴う作業を行おうとしたのであるから、補助者の手を借りるとか、走行用スイッチの操作に気を配るとかして、安全に作業を進めるべきであったのに、これを怠り、そのために事故を引き起こしたと認めるのが相当である。

すなわち、事故の発生については、原告にも過失があったと認めるべきであり、過失の程度は三割に当たるものとして、これを賠償額の算定に当たって考慮するのが相当である。

七  原告の損害について考察する。

1  入通院慰謝料 二五〇万円

原告は、萩原病院に四〇三日間入院し、その後七箇月余の間に七〇日間通院して治療を受けた。その間の慰謝料として右の額を相当と認める。

2  後遺障害慰謝料 五〇〇万円

原告は、労災障害等級第八級相当の後遺障害を被ったので、その慰謝料として右の額を相当と認める。

3  逸失利益 一四一六万五二八〇円

〈証拠〉によれば、原告は、症状固定後就労することができるようになったが、職種は限定されたものである事実を認めることができ、原告は、後遺障害によって四五パーセントの労働能力を喪失したと認めるのが相当である。〈証拠〉によれば、原告は、事故当時月額二〇万円の基本給を得ていた事実を認めることができ、原告は、症状固定日から一九年間就労して、同じ程度の収入を得ることができたものと推認するのが相当である。その間の逸失利益から中間利息をホフマン方式(係数一三・一一六)で控除して、症状固定日における現価を算出すると、年額一〇八万円に右の係数を乗じて右の額となる。

4  過失相殺

原告には三割の過失があったから、1ないし3の各損害額からいずれも三割を減額することとする。これによると、慰謝料の残額は五二五万円となり、逸失利益の残額は九九一万五六九六円となる。

5  損害の填補

原告は、労災一時金として四〇〇万三五〇一円の給付を受けた事実を自白している。これを4の逸失利益残額から控除すると、その残額は五九一万二一九五円となる。

これによると、原告の損害額の残額は合計一一一六万二一九五円となる。

6  弁護士費用 一〇〇万円

〈証拠〉及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五八年八月一日木更津簡易裁判所に対し、被告らを相手方として、事故による損害の賠償を求める調停を申し立てたが、その調停が昭和五九年四月六日不成立に終わったため、弁護士に訴訟を委任して、同月一九日本件訴訟を提起した事実を認めることができる。5の認容額その他の事情を考慮して、右の額の限度において認容するのが相当である。

八  そうすると、原告の請求は、被告ら各自に対し損害金一二一六万二一九五円及び内金一一一六万二一九五円に対する訴状送達の日の翌日の昭和五九年四月二九日から、弁護士費用一〇〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であり、これを認容すべきであるが、その余はいずれも不当であるから、これを棄却すべきである。

そこで、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条一項本文、九三条一項ただし書を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(判事 加藤一隆)

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